研究概要 |
アンジオテンシン(Ang)IIはアンジオテンシン変換酵素(ACE)により産生されると考えられてきたが、我々はヒト、サル、イヌ、ハムスターの心血管組織ではキマーゼもAngIIを産生する酵素として働いている可能性を示唆してきた。本研究の目的は、キマーゼ由来のAngIIの病態生理学的意義を明確にし、特異的キマーゼ阻害薬の有用性を明確にすることである。本年度は組織内で内因性阻害薬の存在下においてもキマーゼが酵素活性を有することを証明し、生体内でキマーゼが働く事実を報告した(Circulation 100,648-653,1999)イヌバルーン傷害血管における血管肥厚では、キマーゼが活性化されており、AngII受容体拮抗薬はこの血管肥厚を抑制できるがACE阻害薬では肥厚が抑制できないことを報告した(J.Hum.Hypertens.13,S21-S25,1999;Jpn.J.Pharmacol.79,455-460,1999)。これらの結果は、生体内でキマーゼが産生するAngIIが血管肥厚に深く関与する可能性を示唆するものである。イヌバイパスグラフトモデルにおける血管肥厚においてもキマーゼが顕著に活性化される事実とキマーゼ阻害薬を用いることでこの血管肥厚が抑制できることを世界で初めて報告した(FEBS Lett.467,141-144,2000)。一方、サル動脈硬化モデルにおいてはACE活性は上昇するもののキマーゼ活性は上昇せず、このモデルにおける粥状動脈硬化病変はACE阻害薬とAngII受容体拮抗薬により、ともに有意に抑制されたことより、動脈壁への脂質沈着に関してはあまりキマーゼが関与していない可能性を示唆した(Br.J.Pharamcol.523-529,1999)。
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