研究概要 |
本年度は、このキマーゼ阻害薬の機序として考えられるアンジオテンシン(Ang)IIの局所産生亢進の関与を明確にするため、イヌバイパスグラフトモデルを作製し、AngII受容体拮抗薬、L-158,809を用いて検討した。このモデルにおける血管肥厚はキマーゼ阻害薬により、有意に抑制されることを前年度の研究成果で報告したが(FEBS Lett.467:141-144,2000)、L-158,809を用いたイヌのグラフト血管でも有意にその内膜肥厚は抑制された(Life Sci.68:41-48;2000)。このモデルでは、内膜肥厚とキマーゼ活性および局所AngII濃度の顕著な上昇に認められることより、バイパスグラフト後の血管肥厚にはキマーゼ活性の上昇に伴う局所AngIIの亢進が重要な役割を果たしていることが示唆された。また、最近PTCA後の再狭窄予防に有効な薬物として、日本循環器学会のガイドラインにも掲載されたシロスタゾールを用いて、イヌグラフトモデルの内膜肥厚に対する効果とキマーゼとの関連性について検討した。シロスタゾールは本モデルの内膜肥厚を有意に抑制し、キマーゼ活性を有意に抑制していた(Eur.J.Pharmacol.411:301-304,2001)。このことは、シロスタゾールの内膜肥厚抑制にはキマーゼ阻害作用が関与している可能性を示唆するものである。さらに、心臓におけるキマーゼの病態生理学的意義を明らかにする目的で、ハムスター心筋梗塞モデルを作製した。このモデルでは組織AngII濃度の上昇と共に梗塞後3日で顕著なキマーゼ活性の上昇が認められ、AngII受容体拮抗薬はその死亡率を有意に抑制するのに対し、Ang変換酵素阻害薬は有意な改善効果が認められなかった(2000年、日本薬理学会総会にて発表、現在投稿中)。これらのことは、心筋梗塞後の心機能不全にキマーゼが産生するAngIIが関与することを示唆するものである。
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