ゲノムインプリントされる染色体領域の凝縮度を比較測定するために開発した、クロマチン凝縮測定法(H/Eアッセイ法)を用い、本年度はRit1がん抑制遺伝子領域の染色体凝縮度を検討した。マウス放射線誘発胸腺リンパ腫でRit1は高頻度のHomozygous deletionを示す。この欠失した領域を測定すると、Rit1遺伝子のエクソン2とエクソン3の領域に限定されている例が多数見られる。すなわち、20-50kb領域の内部欠失が起こっている。この結果から、欠失領域は核内でループ構造をとり、再結合する配列はループの根本で接近し、しかも開かれたクロマチン構造をとっていると想像される。そこで、BALB/cマウスの胸腺、脳および肝臓から核を分離し、その核分画を超音波処理し、ヘテロおよびユウクロマチンに分画した。それぞれのDNAを一定量のMSMマウスDNAと混合し、多型マーカーを用いてRit1近傍領域のクロマチン凝縮度を調べた。用いたプローブは合計8種類で、Rit1遺伝子領域とその両側を含むものである。H/Eアッセイの結果、胸腺および脳では、Rit1近傍から広範囲にわたってユウクロマチン優位のゆるい濃縮度を示した。それに対し、肝臓ではRit1近傍はユウクロマチン優位であるが、内部欠失領域から離れるに従ってヘテロクロマチン優位のつよい凝縮度を示した。Rit1遺伝子は胸腺と脳では転写されているが、肝臓では発現が見られない。従って、臓器特異的な発現と染色体凝縮度との関連性が示唆されたことになる。一方、Rit1内部欠失の配列を決定し、組換えのホットスポットを同定した。このホットスポットを含め、Rit1遺伝子内部での詳細なクロマチン凝縮解析を行うために、現在BALB/cマウスとMSMマウス間での多型を探索しているところである。
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