我々が以前クローン化した2種類の酸化ストレス誘導タンパク質であるMSP23(PrxI)とA170、それに良く知られているストレスタンパク質であるヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)に関して、ストレス剤による誘導現象の解析を中心に研究した。我々は、抗酸化/親電子試薬応答配列(ARE/EpRE)と相互作用する転写因子Nrf2がこれらのタンパク質の誘導現象に深く関与していることを本学基礎医学系伊東健らが作成したnrf2遺伝子破壊マウスを用いて世界で初めて明らかにした。まず、腹腔マクロファージを用いて活性酸素や親電子試薬、カドミウムなどによるPrxI、A170とHO-1との誘導がNrf2に依存して転写誘導されることを証明した。次に、マウスにグルタチオントランスフエラーゼ(GST)などの異物代謝系酵素群の誘導剤であるt-ブチルハイドロキシアニソール(BHA)を経口投与することによりGST同様、肝臓と小腸にPrxIがNrf2に依存して誘導されることを初めて証明した。この結果は、PrxIが生体内においてもNrf2の制御を受けることを示している。このように我々は、本研究プロジェクトを通して、転写因子Nrf2とARE/EpREエンハンサー配列を中心とする親電子試薬応答系は、外界から入る薬物の解毒系に加えて広く抗酸化ストレス応答系の複数の遺伝子の発現を制御していることを明らかにした。さらに、外界から入る異物とは異なる内在性のNrf2活性化因子として、酸化LDLと4-hydroxynonenal(HNE)を同定した。これらの研究成果は、活性酸素や親電子試薬が関与する発ガン、動脈硬化、痴呆、虚血再還流による組織障害の予防法の確立に発展することが期待できる。ことも今後の医学的応用研究への発展を示唆する重要な知見である。
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