これまで、神経変性疾患は、疾患ごとに特有の障害部位とその結果として特有の症状(痴呆・運動失調・異常運動・筋力低下等)を示し、多くの疾患に当てはまる統一的な発症機構に関わる概念・分子機構を導き出すことはできないと考えられてきた。しかし、近年、変性しつつある神経細胞内に異常タンパクの凝集物や形態的に類似する空胞がかなり普遍的に存在することが判明し、神経が変性・消失する過程には、似通った分子機構が存在するという考えが広まってきた。我々は、異常タンパク質の蓄積・凝集を神経変性を引き起こす本体と位置づけ、遺伝性神経変性疾患の発症メカニズム、すなわちハンチントン病・Machado-Joseph病(MJD)等の原因となる伸長したCAGリピートが作り出すグルタミンリピート(ポリグルタミン)によって引き起こされる神経細胞変性・細胞死の分子解析を行ってきた。本研究では、1)ある種の神経細胞にはMJDタンパク質を限定分解する活性が存在すること、2)MJDタンパク質を限定分解する高い活性を有するPC12細胞株を分離できたこと、3)異常タンパク質を高発現させると細胞質に空胞化が引き起こされること、4)細胞内での異常タンパク質蓄積を感知するセンサータンパク質としてVCP/p97が働くこと、5)VCPのセカンドATP結合領域に変異を導入した変異VCPタンパク質を過剰発現させると細胞に空胞化が起こり、続いて細胞死が引き起こされること、6)ポリグルタミン病のショウジョウバエモデルを用いた遺伝学的スクリーニングで、ドロソフィラVCPがポリグルタミンによる神経細胞死を遂行する遺伝子であることを明らかにした。
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