研究概要 |
アスベスト曝露で最も良く知られているがんは悪性中皮腫である.しかし,職業的にアスベストに曝されていた集団に最も多く発生した腫瘍は肺癌であった,という疫学報告もある.我々は,一般人の肺癌発生にもABが関与しているのではないかという仮説の下に,癌研究所に保存されている1950,1970,1990年代の肺癌患者の肺組織中におけるアスベスト量を測定し,肺癌の組織型,遺伝子変化,喫煙の状況などとどのように関連しているかという研究を行っている. 1950年代,70年代,90年代に癌研付属病院で肺癌のために肺の切除を受けた患者のうち,50年代は全組織型,70年代,90年代は腺癌に限定して症例を選択した.肺内アスベスト量の測定は,厚生労働省産業医学総合研究所で以前より用いている低温灰化法と光顕によるアスベスト小体,アスベスト繊維の計測によった. これまでに50年代8例(M:F=6:2),70年代47例(M:F=21:26),90年代53例(M:F=5:12)測定の終了した.小体数(本/乾燥重量(g))の平均値はそれぞれの年代で559,1842,353であり,繊維数の平均はそれぞれ7026,11985,3972であった.アスベスト小体,繊維共に70年代において有意に高かった.職業性曝露の指標としていた小体数1000以上の症例は,各年代で1/8(=13%),21/47(=45%),8/53(=15%)であり,繊維数を指標とすると(3000以上),各年代で7/8(=88%),33/47(=70%),18/53(=34%)であった. これまでの結果から,(1)70年代の肺がん例では肺内アスベスト量が多い,(2)アスベスト繊維数3000では,職業性曝露の指標として低すぎる可能性がある,ということが示唆される.
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