1) ENU投与時期と脳腫瘍の発生部位およびその組織象の関係:ENU投与時期をマウス妊娠10日、11日、生後5日に分け、各群30-50匹のp53の各遺伝子型仔マウスに発生する神経系腫瘍の解析を行った。妊娠10日投与群では流産率が高く30%のマウスが死産で、遺伝子型の比率よりp53-/-マウスの死産率が高かった。発生する神経系腫瘍は10日、11日投与群ではp53-/-マウスの大脳の前頭葉にglioblastoma、neuroblastomaに類似した組織象を示す腫瘍が認められた。現在腫瘍の組織学的検索の段階で、全ての腫瘍についての解析が終わっていないが、発生頻度は約40%であった。妊娠早期にENU投与によりこれまでと異なった部位(前頭葉)に腫瘍の発生を見た点は興味深い。また、生後5日投与群ではp53-/-マウスの50%に小脳のmedulloastomaが認められた。 2) ENUと投与時期の脳内のアポトーシスの関連:妊娠10日から生後5日までの胎児期および仔マウスについてENU投与後の脳内アポトーシスをtunnel法にて解析した。野生型胎児マウスでは妊娠早期(10日、11日)では大脳皮質と脳幹部にENU関連アポトーシスが認められ、12日以降ではこの領域が大脳の海馬領域に限局し、生後5日になると大脳ではアポトーシスは認められずENU関連アポトーシスは小脳の外顆粒層に限局してみられることが分かった。このアポトーシスはp53-/-マウスでは認められず、しかも脳腫瘍発生部位とENU関連アポトーシスの部位がほぼ一致していた。このことはENUによって障害を受けた細胞がp53依存性のアポトーシスにより排除されないことが脳腫瘍の発生と密接に関連することを示すものと考えられた。 3) 現在進行中の解析:上記1) の腫瘍組織象の解析を進めており、その他にも発生の段階における増殖能と腫瘍の関連、ENU投与により発現の上昇ないし減弱を示す遺伝子の同定を行っている。
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