内嗅領野と視覚野の粗膜分画を免疫抗原とし、免疫抑制免疫法とin vitro免疫法を結合したSOFISTIC法、SOFISTIC法を改良したpSOFISTIC法(primed SOFISTIC法)、in vitro免疫法の3法を用い、ADの大脳の変化に関連性を示すモノクローナル抗体産生を目指した。ミエローマ細胞とリンパ球はポリエチレングリコールを用いる方法と、申請して購入した高電圧パルス式細胞融合装置(LF101、Gen System社)による電気的方法により融合した。スクリーニング法として、フォルマリン固定後パラフィン包埋されたヒト大脳、および急速凍結されたラット大脳組織切片の免疫染色を行なった。 以上の実験により、約4000個のハイブリドーマのクローンが得られた。3法とも融合効率と免疫グロブリンのイソタイプに違いはなかったが、ヒト大脳の切片を染色するクローンはSOFISTICおよびpSOFISTIC法において、in vitro免疫法より高率に産生され、ラット大脳の切片を免疫染色する抗体産生クローンはこの2法で低かった。SOFISTIC法は共通抗原に対するクローンの抑制効果が最大で、短時日のうちにさまざまな抗体産生クローンを生成したので、用いた免疫技法の中ではベストである。ヒト大脳の免疫染色の結果、神経細胞、アストログリア、細胞内小器官、神経線維・伝導路を染めるクローンが見い出された。また、1A2はADにおける神経原線維変化と老人斑を、18D3は類澱粉体を、21E2は顆粒空胞変性を示す神経細胞を濃染した。3E3はAD大脳の海馬のCA1神経細胞において発現が消失した。免疫染色の結果から、当初の実験目的である、改良された免疫法によるAD大脳の病理変化を捕えるモノクローナル抗体産生は成功した、と考えられる。今後、興味ある抗体の特性、その抗原の同定と大脳局在を詳細に検討する予定である。
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