研究概要 |
1 トランスジェニックマウス 全長ウイルス遺伝子を導入したALB-HN2(アルブミンエンハンサー・プロモーター制御)とME-HN2(SRαプロモーター制御)のラインから、A44,A39,A48,S2,S5の5ラインを対象とし、A44に続いて他の4ラインについても、引き続き解析を行った。コントロールマウスとして、A48とS2作成時の同腹個体を用いた。まず、ウイルス蛋白質発現だけで肝炎、肝癌の発症をみることができるかを知るために、12ケ月齢と21ケ月齢で屠殺し、各20-30個体を解析した。 2 トランスジーンの発現解析 A39,A48は、12ケ月齢より全個体の肝臓でウイルスmRNAの発現が観察された。S2,S5では、どの組織も全く発現が見られなかった。発現したmRNAは、全長が保たれており、50-4000コピー/μg total RNAの発現量であった。肝組織中のコア抗原の定量を行ったが、測定限界5pg/mg liver protein以下であった。 3 肝炎、肝細胞癌の分子病態解析 肝組織学的解析で、血管周囲の炎症性細胞浸潤と巣状壊死が21ケ月齢のA39,A48に多く観察され、特に巣状壊死がA39では有意に多かった。脂肪変性は全体に30-50%の個体に観察され、有意な上昇は見られなかった。肝組織の繊維化や腫瘍性病変、また血清トランスアミナーゼの上昇は観察されなかった。第3世代HCV抗体も全個体が陰性を示した。しかし、ヒトで観察されるインターフェロン誘導遺伝子群や細胞周期関連遺伝子の発現増強が、リアルタイムRT-PCRによる定量解析で、肝組織に観察された。 以上より、アルブミンプロモーター制御下の全長導入トランスジェニックマウスは、ウイルス遺伝子発現量や組織病態変化から、炎症の弱い、一部の慢性肝炎患者に類似するモデルと考えられる。しかし、ウイルス抗体産生能などヒトとは大きく異なることより、ヒト慢性肝炎肝細胞癌モデルとしては、ウイルス抗原に対する免疫反応の導入が、必須と考える。
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