宿主小腸内と言う低酸素分圧の環境に生息する寄生性線虫である回虫ミトコンドリアは特殊な嫌気的呼吸鎖を形成し、適応している。この中で成虫複合体IIは哺乳類や回虫幼虫におけるコハク酸脱水水素酵素(SDH) の逆反応を触媒するフマル酸還元酵素活性を示し、NADH-フマル酸還元系の末端酸化酵素として機能している。我々は生化学的解析から幼虫と成虫の複合体IIがそれぞれ異なった酵素複合体である事を見い出しているが、本研究では両酵素のサブユニットそれぞれについて、比較的検討を進めている。 複合体IIは4つのサブユニットから構成され、分子量約70kDaの最も大きいサイズのサブユニット(Fp)は補欠分子族としてFADを含み、これと分子量約30kDaで3種の異なるタイプの鉄-イオウクラスターを含むlpサブユニットから比較的親水性の触媒部位が形成されている。この触媒部位が膜に安定に局在するには約15kDaから構成される2種の小さな疎水性のサブユニットが必要であり、多くの酵素でヘムbを含む事からシトクロムbサブユニット(cyb Lおよびcyb S)と呼ばれている。本年度は幼虫cyb SのcDNAをクローニングし、すでに一次構造が明らかになっている成虫cyb Sとの相違点について解析した。幼虫cyb Sは成虫cyb S同様、やはり非常に疎水的な性質を持っており、ミトコンドリア内膜を3回貫通していると予想された。また、ヘムの結合に関与していると考えられているヒスチジン残基は第2膜貫通領域に保存されていた。
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