EBウイルス(EBV)がコードする膜蛋白質LMP2Aは生体内の潜伏感染Bリンパ球で発現が確認された唯一のウイルス遺伝子産物であり、EBV潜伏感染の維持に機能している可能性が考えられる。Bリンパ球は特異抗原刺激(=膜免疫グロブリン架橋)により活性化され抗体産生細胞に分化する。この活性化刺激に伴いBリンパ球に潜伏したEBVも活性化されることがバーキットリンパ腫細胞を用いた実験により明らかとなっている。LMP2AはこのBリンパ球の活性化を阻害することが実験的に示され、その結果EBVの潜伏状態維持に働いている可能性が示唆されている。EBVの潜伏感染維持におけるLMP2Aの機能を明らかにするために、昨年までの研究でLMP2AをノックアウトしたEBVを作製して、主にバーキットリンパ腫由来Akata細胞を用いて解析をおこなってきた。今年度は、末梢血Bリンパ球へのEBV感染系を用いて解析を行った。EBVによるBリンパ球不死化効率は野生株EBVとLMP2AノックアウトEBVで差が無かった。野生株EBVで不死化したリンパ球ではLMP2Aが強く発現していたが、LMP2AノックアウトEBV不死化リンパ球ではLMP2Aの発現を認めなかった。野生株で不死化したリンパ球では膜免疫グロブリン架橋によるEBV産生がほとんど起こらなかったが、LMP2AノックアウトEBV不死化リンパ球では1〜5%の細胞にEBV産生が誘導された。以上の結果はLongneckerのグループと同様で、EBV不死化リンパ球においては、LMP2Aが潜伏EBV活性化阻止に働いていることを示している。次いで、EBV株間でのLMP2Aの違いを明らかにするために、AkataEBVのLMP2A部分の塩基配列を決定し、すでに報告されているB95-8EBVのLMP2Aと比較した。B95-8株と比べて3ヶ所の塩基に違いがあり、その結果3ヶのアミノ酸に違いを生じていた。しかし、膜免疫グロブリン架橋によるシグナルをブロックするのに重要とされている2ケ所のITAMモチーフは両ウイルス株で保存されていた。従って、LMP2Aの機能については両EBVで違いが無いことが明らかとなった。
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