研究概要 |
我々はこれまでに,精製センダイウイルス(SeV)粒子を用いた効率のよい,かつ正確なin vitro転写系を開発し,HVJの転写には細胞由来の複数のタンパク質性因子(宿主因子)が必要であることを見出した.今年度は,宿主因子の精製とその機能解析をさらに進め,以下の結果を得た. SeVのin vitro mRNA合成を促進する活性を指標として,ウシ脳抽出液より宿主因子活性を精製したところ,4つの相補的な分画に分離された.4つの因子をそれぞれ単一タンパク質にまで精製した.このうちの2つの因子について,それぞれ細胞骨格系タンパク質のチューブリン,解糖系酵素のホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)であることを明らかにした.これら因子の機能については,チューブリンは転写開始反応に関与し,PGKと他の2因子(p28,p52)はRNA鎖の伸長反応において協調的に作用することを示した.PGK,p28およびp52は,転写開始ヌクレオチドであるATPのKm値を低下させることにより転写を促進すること示した.またチューブリンは,転写か意志複合体に組み込まれるばかりでなく,ウイルスMタンパク質と結合しウイルスRNPからそれを除去することによって転写開始を活性化していることを明らかにした. SeV mRNAはキャップ(m7GpppAm)されているが,この構造の生合成が宿主酵素によるのかウイルス自身の酵素によるのかは明らかでない.精製ウイルスRNPを用いたin vitro反応系でキャップメチル化酵素活性(mRNA(guanine-7-)methyltransferase)を検出することに成功した. SeVゲノム3'末端リーダー配列(le)からは,(+)リーダーRNAと呼ばれるタンパク質をコードしない約50ヌクレオチドの短鎖RNAが転写されるが,その合成機構と意義は不明である.我々は,ゲノムle配列に特異的に結合する因子(leader binding protein:LBP)を見出し,その部分精製と性質について検討した.その結果,LBPは少なくとも3成分からなり,その内の2成分(p90とp37)は相補的に作用した.また,単鎖le配列よりもleを含む2本鎖に強い親和性を持つことが明らかになった.3つ目の成分はp90のRNAへの結合を促進した.さらにこの因子は,(+)リーダーRNA合成を負に調節する因子であることが示された.
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