研究概要 |
センダイウイルス(SeV)はパラミクソウイルス科に属し,そのゲノムは約15kbの非分節マイナス鎖RNAからなる.ウイルスゲノムの転写は,ウイルスゲノムでコードされるRNA依存RNAポリメラーゼ(LおよびPタンパク質)によって触媒されるが,転写反応にはこの酵素以外にも宿主由来のタンパク質因子(宿主因子)の存在が必須である.我々は,SeVゲノム転写の分子機構を明らかにすることを目的に,宿主因子の精製とその機能解析を行っている.これまでに,精製ウイルス粒子を用いたin vitro転写反応による解析から,SeVmRNAの生合成には少なくとも3つの宿主因子が必要であり,その内の2つについて,細胞骨格系タンパク質のチューブリンおよび解糖系酵素のホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)であることを明らかにした.今年度は,第3の因子の精製とその機能解析を行い,以下の結果を得た.チューブリンとPGK存在下にウシ脳抽出液よりSeV in vitro転写反応を促進する活性を指標として第3の因子を精製したところ,因子はさらに2つの相補的なタンパク質成分,分子量52,000(p52)と同28,000(p28)に分離された.そのうちのp52は単一タンパク質として精製し,その部分アミノ酸配列,酵素活性,ならびに免疫化学的な性質から解糖系酵素のエノラーゼであることを明らかにした.このことは,組換えヒトαエノラーゼもp52と同様の転写促進活性を示すことからも裏付けられた.これら4つの宿主因子の機能に関しては,チューブリンが転写開始に関与し転写開始複合体中に組み込まれて機能するのに対して,PGK,エノラゼ,およびp28の3者はmRNA鎖の伸長段階を促進することを明らかにした.また,SeV mRNAはメチル化キャップ構造を有するが,キャップメチル化酵素,mRNA(guanine-7-)methyltransferase,活性がウイルスゲノムを合むリボヌクレオプロテイン(RNP)中に合まれていることを明らかにした.
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