研究概要 |
本研究では次のような成果を得た。(1)Lynキナーゼ欠損マウスにおける自己免疫病発症のさらなる解明。Lynキナーゼ欠損マウスと自己赤血球に対する自己抗体産生性トランスジェニックマウスを掛け合わせると、その自己免疫性貧血は著明に増悪する。このようなマウスでは、著明なB1細胞の増殖と活性化が見られ、逆にB2細胞は殆ど消滅する。Lynキナーゼの欠損が自己反応性B1細胞の生存、増殖、分化の促進に深く関わっているが明らかとなった。これは、Lynキナーゼの欠損B1細胞では、抗原受容体シグナルを負に制御する機構に破綻が生じたためである。B1細胞でシグナルを負に制御する補助受容体として、従来のCD22,CD72,PIR-B,FcgRIIBの他に、CD5,Ly49が重要な役割を演じていることを示した。Lynキナーゼによるこれら受容体の細胞内ITIMモチーフのリン酸化とSHP1/2などのフォスファターゼのリクルートメントが重要である。 (2)BCRシグナルによって特異的にその発現が制御される転写因子FosB、△FosBの転写調節を解析して受容体からのシグナル伝達系と核内遺伝子発現系を一連の反応系としてつなぐ試みを行っている。(3)Golgi膜、小胞体膜輸送に重要な新たな分子PITPnmを我々は単離した。PITPnmがGolgi膜上でPI4Kと会合して、PI代謝の制御を行っていることを示した。今後、PITPnmが抗原受容体からのMHCクラスII分子への抗原ペプチドの提示にどのように関わっているかを、PITPnm及びその変異タンパクを高発現したB細胞株を用いて明らかにする。(4)マウスB細胞株WEHI231細胞のBCRシグナルによるアポトーシス誘導には、ミトコンドリアに働く新たに合成されるタンパクが関与していることを示した。現在、この分子の同定を行っている。
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