過去3年間に渡って、ダイオキシンの標的臓器(肝臓)への蓄積量からみた量・反応関係をラットにおいて作成し、また文献的に得られたヒトの血中(脂質中)のダイオキシンの量から、ヒトの肝中ダイオキシンの量を算出し、ヒトでのダイオキシンの量・反応関係を作成してきた。極めて少量曝露では、肝の異常巣や細胞増殖は、逆に抑えられていた。生化学的変化では、最小濃度2.5pg/gで、最も鋭敏なCYP1A1mRNAの誘導がみられた。これらの変化は、生化学的な変化がみられるものを対象にしており、その意義、すなわち、悪影響であるのか、何等かの健康障害をもたらすものであるのかなどは、全くわかっていない。明らかな異常として、病理学的変化を対象に、同様に臓器中量と影響の関係をみると、肝で500pg/g以上で、病理学的に明らかな異常が認められた(肝細胞増殖)。生化学的変化を生ずる閾値は、肝中ダイオキシン量2.5pg/g(上下に10の幅をとると、0.25-25pg/g)であり、明らかに異常な病理学的変化をもたらす閾値は、肝中ダイオキシン500pg/g(安全幅をみると、50-5000pg/g)であった。この量・反応関係のデータ(2.5pg/g-500pg/gの間には、免疫抑制(220pg/g)、レセプター調節異常(340pg/g)などが含まれる)を基に、文献的に調べたヒトのデータを当てはめると、イタリアで発生したセベソ事故などでみられた高濃度曝露による塩素座瘡ありの者(1592pg/g)以外は、ダイオキシンの曝露レベルが病理学的な異常レベルに達していないことが判明した(研究成果報告書参照)。
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