過去3年間に渡って、ダイオキシンの量・反応関係に基づいたヒト健康影響評価法について研究してきた。ラットでは、肝癌発生時のダイオキシンの肝中量は24ng/9であった。ヒトでは、ラットの肝癌発生時の濃度には決して達していないこと、何等かの影響がみられるラットでの10ng/kg/日の量にも達していないことがわかった。生産平均1日曝露量をもとに、米国EPAのダイオキシンの発癌の最も可能性のある係数(動物実験から1人のヒトが一生曝露されて1/10^6で発癌する確率:9×10^<-6>ng/kg/日)を用いて、ヒトの高濃度曝露群の全癌、肺癌、軟部細織肉腫のバックグランド発生一般人口での発生)率とダイオキシンによる発癌の率を計算し、果たしてダイオキシンによる発癌が検出されるのかどうかを計算すると、少なくとも全癌や肺癌では、たとえダイオキシンで発癌していても検出できないこと、すなわち他の原因による一般人口の発癌と区別できないこと、米国の農薬製造労働者とセベソの事故での塩素座瘡を示した者でのみ、軟部細織肉腫が有意に検出されることを示した。この場合、米国EPAの1/10^6発癌値が、仮に2倍となると全く検出されなくなった。すなわち、現在のところ、ヒトの過去における高濃度曝露者では、どんな曝露でもヒトの発癌を明らかにするだけの量に達していないこと、また、仮にダイオキシンに発癌性があるとしても、ヒトの集団の疫学でそれを検出できないことを示している。以上、本研究は、動物実験において、ダイオキシンの投与量をもとに生体影響を観察し、ダイオキシンのヒト影響を毒性学的に量と反応の関係から推定しようとするものである。これら多くのデータが集まり、ダイオキシンの生体内量の測定が行われ、そのデータが集積してくれば、より正確に耐容1日量などが計算できるものと考えられ、その日が一日も早く到来することが望まれる。
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