現代人における夜間の人工光曝露とメラトニン作用との関連を調べるため、4つの調査を実施した。 まず、ヒトの内因性リズムの位相を知るうえで血液中メラトニン濃度の代わりとして使用できる生理学的指標を見いだすため、心拍変動や皮膚色の時系列解析を試みた結果、有用な指標を得ることはできなかった。 次に、20代ボランティアにおいて夜間の室内明暗環境を異ならせた2夜〜4夜の尿中メラトニンを調べた結果、夜間光曝露のちがいによるメラトニンの差は観察されなかった。 つづいて、疫学調査では、乳癌のリスクとなっている血清や尿中のエストロジェンとメラトニンとの関係について、日本人と米国白人女子、日本人、日系人と米国白人の比較を行った。乳癌リスクは、日本人、日系人および白人女子の順に高く、エストロジェンのレベルもこの順に高くなる傾向が示唆されるが、メラトニンとの間に予想された負の相関は見られなかった。つまり、動物実験で示されているようなメラトニンがエストロジェンとを低下させる作用は人の生理レベルでは支持されなかった。 最後に、札幌と東京の高齢者について夜間就寝までの時間帯における屋内光曝露の実態調査を行った結果、最高で300ルックス程度であった。少数例ではあるが、一般的な照度としてはこのレベルまでであるとすれば、上記の光曝露実験では見ていない200-300ルックスによるメラトニン分泌への影響などについては、その他極端な照度を仮定した場合とともにさらに疫学的な検討の余地が残されている。 本研究の途中において、単色光を夜間曝露する実験において青色の光が最も効率よくメラトニン分泌を抑制することを示唆する結果が報告された。現在開発されている新たな光源である青色LEDなどの応用開発が進められていることもあり、そうした新光源の安全性評価が急務となっている。本研究の成果を基に、本研究では検討しえなかったこうした光源の影響などを含めさらなる研究を計画中である。
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