近年の研究より大腸癌細胞ではAPC遺伝子産物が機能を喪失するとβ-Cateninの分解が阻害される結果、Wnt-シグナルの活性化を引き起こすことが判明し、これが大腸癌細胞の異常増殖に深く関与している。 APCやc-MYCなどのWnt-シグナル系関連分子を制御することによる新しい大腸癌の治療法の開発を目指し、本研究は開始された。 1.β-Cateninダウンレギュレーションベクター(β-DR)の大腸癌遺伝子治療への応用 APC遺伝子の全長のcDNAでは、遺伝子導入効率が低く、十分な殺細胞効果は認められなかった。そこで、ベクターサイズの縮小化を図り、β-Catenin分解のためのScafoldタンパク質として働くAPC遺伝子の1260-2056a.a.領域を含むフラグメント(core-APC)をCMVプロモーターの下流につないだ発現ベクターを作成した。このβ-DRベクターは、DLD-1などの大腸癌細胞株にin vitroで細胞増殖阻害効果を示した。β-DRベクターのin vivoへの応用を考え、アデノウイルスベクターによるものと矩形波によるパルスエレクトロポレーションによる遺伝子導入効率の比較検討を行った。ヌードマウス皮下移植大腸癌細胞株に対して、アデノウイルスベクターは十分な抑制効果を認めたものの、パルスエレクトロポレーションの増殖抑制効果は極めて弱く、この方法の臨床応用の可能性は否定的であった。また、β-DRベクターのアデノウイルスベクターによる投与でも、投与を打ち切ると腫瘍の再増殖が認められ、その根治性に問題を残した。 2.大腸癌細胞特異的毒素産生ベクター(MYC-DT-A)の作成による大腸癌の制御 大腸癌細胞において亢進しているc-MYCへのシグナル伝達系を利用して、大腸癌細胞を特異的に殺傷するベクターに関しては大腸癌細胞に特異的な殺細胞効果の実現は困難であった。
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