研究概要 |
ヘリコバクタ・ピロリ感染によって胃癌が生じることがほぼ明らかとなってきているが、その発症の機序については十分明らかではない。そこで私たちはヘリコバクタ・ピロリを胸腺を摘出したマウスに感染させることによって胃腺腫を発症させ、その発症に関与する増殖因子やチロジン・キナーゼのクローニングを試みた。生後3日目のBalb/cマウスに胸腺摘除をおこない、その6-8週後にヘリコバクタ・ピロリを感染させた。本マウスではその後腸上皮化生が生じ、6-9ヶ月後には約50%のマウスに胃腺腫が生じていた。この腺腫からRNAを抽出してcDNAを作製した。これを正常胃組織を用いてsubtractionをおこない、その後大腸菌に導入して培養後、その上清をGSM06細胞などの種々の胃上皮細胞株に導入して増殖活性とともにチロジン・キナーゼ活性や転写因子の発現など細胞内情報伝達系の解析をおこなった。そしてこれらの活性を上昇させtが培養液を得た大腸菌からcDNAを得て、遺伝子の解析をおこなった。その結果、TGF-α,HGF,Reg遺伝子がこれらの活性を上昇させたことが明らかとなった。さらにこれらのcDNAを用いてノザーンブロット解析、In situ hybridizationをおこなったところ、腺腫においてこれらの遺伝子の増幅が明らかとなった。一方同様にして得たcDNAを直接胃上皮細胞株に導入し、その増殖が亢進している細胞からcDNAを抽出して遺伝子クローニングをおこなった。その結果src,cyclin D1の遺伝子が同定された。さらにこれらの遺伝子についてもその発現を組織を用いて検討した結果、ともにその発現の増強が確認された。以上、ヘリコバクタ・ピロリ感染によって腺腫が形成される際に、種々の増殖因子、細胞内伝達物質の関与が明らかとなった。
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