本年度はH.pyloriに感染したマウスの in vivo での解析を重点的におこなった。人体の材料は良質なものや背景がそろったものが集まりにくく、生化学的アッセイを行うのに困難を生じたので、H.pylori の感染モデルをマウスで作製して、短期、長期の感染状態での宿主応答をみる目的で各種材料を採取した。また、予算の減額から、多様な解析は避け、病態の解明に最も重要な点を重点的に解析することから始めた。宿主応答をみるためには MAP kinase、なかでも cell cycle やappotosis についての関与を考察する目的で Janus N-terminal kinase (JNK)が重要である。最新の知見から、H.pylori に特異的T細胞によるサイトカイン disease の長期的な終焉として発ガンがあり、Th1 と Th2type の T ヘルパー T 細胞のバランスがこの環境がつくりあげられるのに最も重要と考えて、まず H.pylori 感染マウスから H.pylori に特異的T 細胞を in vivo より取り出して解析して下記の成績を得た。 H.pylori の BALB/c マウスの胃内の感染は、感染2週目には Th1 type のサイトカインの産生を示したが、感染6週目には Th2 type のサイトカイン産生へと変化していた。この Th1 type スイッチは非常に驚きで、H.pylori 感染にあらたな視点を与えた。また、このスイッチはウレアーゼ蛋白に特異的な CD 4陽性 T 細胞によって主にコントロールされていた。また、 H.pyoloriの抗原刺激に対して感受性の高い T 細胞を解析すると、感受性の低いT細胞にくらべてJNK活性が高くIL2 産生性がより高いことが分かったが、感染が長期化するこのJNK活性の高い細胞が著しく減少していた。次年度は、さらにこのJNK高活性T細胞を主として保有するマウスとJNK 低活性T細胞を主として保有するマウスでのT細胞内、あるいはT細胞間でのシグナル伝達系やクロストークの解明と胃の炎症の進展との関係や胃上皮細胞でのキナーゼクロストークの変容について解析を進めたい。また、HCV陽性肝癌細胞で C-terminal Srk kinase (CSK)の活性の低下を発見したが、次年度にはSrk関連キナーゼと肝発癌との関連をより明確にする予定である。
|