研究概要 |
昨年に引き続き炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase;CA)アイソザイムの遺伝子クローニングを行い、新しくヒト炭酸脱水酵素関連蛋白X(CA-related protein;CA-RP)を同定した。CA-RP XのcDNAは全長2,720塩基対で、既報のCAアイソザイムと高い相同性(25-57%)を示す328アミノ酸残基の蛋白をコードしていた。最も高い相同性を示すCAアイソザイムはCA-RP XIであった。CA-RP Xは酵素活性に不可欠な3つの亜鉛結合-Histidine残基のうち2つを決失しており、CAとしての生理活性のないことが推察された。系統樹による検討でも、CA-RP XはCA-RP VIIIおよびXIと共に独立したグループを形成していた。DNA配列から予想される蛋白の分子量は37.6kDaであった。 膵臓におけるCA-RP XのmRNA発現はRT-PCR法では確認されたが、Northern blot法では確認されなかったことより、膵臓ではminorな種類の細胞において発現しているものと考えられた。一方、脳および腎臓においてCA-RP Xのmessage(約2.8kbp)がみられた。 CA-RP VIII,X,XIに対するマウスモノクローナル抗体を作製した。これらの3種類のCA-RPは脳において強いmRNA発現がみられたことより、まずヒト脳における局在を免疫組織染色にて検討した。その結果、CA-RP VIIIは脳の全域にわたり、神経細胞の細胞体および軸索に発現がみられた。CA-RP Xは大脳髄質のミエリンに発現が確認された。CA-RP XIは脳の比較的ひろい範囲にわたり、神経細胞と星状膠細胞に発現がみられた。現在、膵臓をはじめとする末梢臓器での発現を検討中である。 一方、慢性膵炎患者78人においてCA IおよびCA IIに対する血中抗体を測定した。その結果、慢性膵炎では各々27%、28%が陽性であったのに対し、健常人では26人中2人(8%)のみ陽性であった(P<0.05)。また、慢性膵炎患者において両抗体価は有為な相関を示した。以上の結果より、CA IおよびCA IIに対する免疫応答が慢性膵炎の病因に何らかの役割を担うことが示唆された。
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