研究概要 |
昨年度に作製した炭酸脱水酵素-関連蛋白(carbonic anhydrase-related protein ; CA-RP)VIII, X, XIに対するマウスモノクローナル抗体を用い、膵臓を含む各臓器にて免疫組織染色を行った。その結果、CA-RP XおよびXIは脳以外の末梢組織での発現は見られなかったが、CA-RP VIIIは末梢組織でひろく発現がみられ、膵臓では導管細胞と腺房細胞での発現が確認された。また、心筋細胞、骨細胞、腎尿細管上皮細胞、胃底腺上皮細胞、乳腺細胞で発現がみられた。膵癌での染色性もみられたが、用いた抗体の希釈倍率では正常導管細胞との有意差は認められなかった。一方、肺癌および大腸癌では正常上皮細胞と比較し、著明なCA-RP VIIIの発現増強が確認された。特に、大腸癌では腫瘍の浸潤先端部での発現が強くみられ、腫瘍細胞の浸潤能との関連が示唆された。 上記の結果を含め、本研究での検討を総合すると、膵臓に発現のみられるCAアイソザイムはCA I(既報),II, IV, VB, VI(mRNAのみ),IX, XIIおよびCA-RP VIIIであることが明らかとなった。 一方、自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis ; AIP)の病因におけるCAアイソザイムの役割を検討するため、既報のCA IIに加え、CA IV, IX, XIIに対する血中抗体を測定した。すなわち、CA IV, IX, XIIとGSTとの融合遺伝子組み換え蛋白を作製し、特発性慢性膵炎患者80人と健常人30人において血中抗体をWestern blot法により検討した。その結果、CA IXおよびCA XIIに対する血中抗体は患者および健常人で全く認められなかったが、CA IIおよびCA IVに対する血中抗体が特発性慢性膵炎80人中24人(30%)と4人(5%)、健常人30人中3人(10%)と1人(3%)で認められた。坑CA IV抗体の陽性率に患者と健常者で有意差はなかったが、CA IVはCA IIに比し膵臓をはじめとする外分泌腺組織導管細胞での発現に特異性があることより(昨年度までの検討で報告)、CA IVに対する免疫応答が特発性慢性膵炎、特に自己免疫性膵炎の病因に何らかの役割を担うことが示唆された。今回血中抗体の測定に用いたWestern blot法は感度が低いため、今後はELISA法を用いた検討が必要と考えられる。
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