研究概要 |
分子設計したVEGFの生理活性を生体内で評価するためには,本因子の作用点を把握しておく必要がある。そこで,各種プロテオグリカンの肝内分布やVEGFとの結合性を評価するに先だって,類洞内皮細胞の増殖以外にVEGFが作用を発揮し得るかの検討を行った。 ラットの初代培養類洞内皮細胞は,10ng/mLのVEGFを添加するとviabilityが維持され,100ng/mLを添加した際には増殖した。走査電顕による観察下に小孔の数及び面積からporosityを計測したところ,100ng/mLのVEGFを添加すると,10ng/mL添加した場合に比して有意に高値になることが判明した。従って,VEGFは類洞内皮細胞の増殖を促進するのみならず,porosity増大から物質の透過性亢進にも作用すると考えられた。また,HUVECを用いた検討では,VEGF添加によりその受容体であるflt-1,KDR/flk-1のmRNA発現も増強することが明らかになった。また,VEGFを介する細胞内情報伝達はPKC,PLC-γ,MAPKの系を介することが報告されていたが,porosity増大や受容体の発現増強に関わるシグナルはこの系を介さないことも見出した。 また,肝では類洞内皮細胞のみならず星細胞もVEGF受容体を発現することを見出した。VEGFは活性化星細胞に作用して,その増殖には影響を与えないが,平滑筋αアクチン発現の減弱から収縮を抑制することを明らかにした。その際,収縮抑制に関わるシグナルはPKC,PLC-γ,MAPKの系を介している可能性も見出している。 以上の様に,肝におけるVEGFの作用点は多彩であり,分子設計したVEGFの生理活性も類洞内皮細胞とともに星細胞でも評価する必要があることが判明した。現在は,これらVEGFの作用機序に関する基礎検討とともに,各種プトテオグリカンの肝内分布に関する免疫電顕での実験を進行中である。
|