筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis以下ALS)は進行性の難治性神経疾患で、その予後はきわめて不良である。ALS発症者の5-10%は家族性であることが知られており、通常、常染色体優性遺伝形式をとる。近年、家族性ALSにおいてCu/Zn superoxide dismutase(以下Cu/Zn SOD)遺伝子の変異が報告され、それによる運動ニューロン選択的細胞死の機序の解明が待たれている。しかしながら家族性ALSの病因におけるCu/Zn SOD遺伝子異常の普遍性を論じるためには、Cu/Zn SOD遺伝子異常の見つからない家族性ALS家系の原因遺伝子の検討が必要である。本研究はCu/Zn SOD遺伝子異常の見られない家族性ALSの大家系(4世代、15名のALS患者)において、その新しい遺伝子座を検索することを目的とする。インフォームドコンセントを得てから患者およびその家族から末梢リンパ球を採取し、DNAを抽出すると共に、EBVトランスフォーム下リンパ芽球株を樹立した。患者およびその家族のDNAを利用して、最初にこれまでに遺伝子座が明らかになっている運動ニューロン疾患あるいはその類似疾患(劣性遺伝形式を含む)の遺伝子座における連鎖を検討したがいずれも連鎖は否定的であり、新たな遺伝子座に連鎖する可能性が示唆された。現在、全ゲノムにわたる検討を継続している。その一方で、上記家系をふくめた多数の家族性ALS家系の遺伝子解析を行うことにより、わが国ではじめてCu/Zn SOD遺伝子変異をホモ接合性に持つALS患者を発見した。また、孤発性ALSの患者においてグルタミン酸トランスポーターのサブタイプのうちEAAT2遺伝子に点突然変異を同定した。
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