筋萎縮性側索硬化症(ALS)は脳および脊髄の運動ニューロンが進行性に脱落し、全身の骨格筋が麻痺する変性疾患でその有効な治療法が切望されている。培養脊髄ニューロンをGlu+PDC、もしくはNOC18に曝露すると、運動ニューロンが選択的に細胞死に陥った。このときGluまたはNOC18を曝露する24時間前より培地中に17βエストラジオール、またはその光学異性体である17αエストラジオールを加えておくと、運動ニューロン死が抑制された。この保護効果はエストロゲン受容体の拮抗阻害薬であるICI182780で抑制されず、受容体を介さない作用であることが示唆された。さらに、還元型グルタチオンを同時投与すると、単独では保護効果を示さない濃度の17αエストラジオールで保護効果が認められた。本研究で興味深いのは、100nMの17αエストラジオールが運動ニューロン死に対して効果があったことである。17αエストラジオールは内分泌的には不活性で、副作用は生じにくいと考えられ、また、100nMという濃度は妊娠女性の血中エストログン濃度の2倍程度である。今後17αエストラジオールあるいはその誘導体の単独、もしくはグルタチオンなどとの併用投与などのかたちでALSの治療を開発し得る可能性が示唆された。 また、cyclic GMPアナログが非運動ニューロンに加えて、運動ニューロンに対しても酸化ストレスによる細胞死を保護することを示した。cyclic GMPによる神経保護効果がPKGの活性化を経ており、蛋白合成を介したものであることを示した。このサイクリックGMP-PKGカスケードに関与する保護機序を明らかにすることによって筋萎縮性側索硬化症における治療の可能性が広がるものと期待される。
|