研究概要 |
(1)細胞障害の定量的測定法として用いられる3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide(MTT)還元法は、細胞内redox stateの指標であり、一般にエネルギー代謝(ATP産生)におけるミトコンドリア活性(酸化的リン酸化能)を反映するとされる。ラット培養type-1アストロサイト(以下A)によるMTT還元反応の特性をニューロン(以下N)と比較検討し、両者のエネルギー代謝の差異を評価した。解糖系最終産物であり、TCAサイクルへのエントリー物質である乳酸とピルビン酸がMTT還元活性に及ぼす効果にはAとNで明白な差があり、AにおけるMTT還元反応はミトコンドリア活性を部分的に反映するが、むしろ解糖系活性の関与が大であること、すなわち、Aにおいて解糖系が、NにおいてTCAサイクルがATP産生に関与することを示す結果であった。 (2)続いて低グルコース下の細胞障害をLDH放出を指標にAを用いて検討した。(1)の結果は、エネルギー代謝(ATP産生)という面からはAにおけるTCAサイクルの役割が低いことを示唆したが、無グルコース下72時間後に生じるA障害は乳酸、ピルビン酸投与により有意に抑制された。このことは細胞障害に際してはAにおいてもTCAサイクルが重要な役割を有することを示し、両者の解離がうまく説明できない。そこで両者での細胞内Na^+流入に差異があるという仮説をもとに、これをリアルタイムでモニターするシステムの構築を進めた。 (3)細胞内Na^+濃度測定に用いる蛍光試薬sodium-binding benzofuran isophthalate(SBFI)は蛍光強度が低く測定が困難な為、これまで蛍光マルチプレート・リーダーを用いた測定の報告はない。本年度購入した蛍光マルチプレート・リーダーCytoFluor4000を用い、SBFIによる細胞内Na^+濃度変化をダイレクトに測定する系を構築中である。現在、AおよびNにおいてNa^+チャネル・オープナーであるveratridineを投与した際に蛍光シグナルが経時的に増加する現象を捉えることに成功しており、間もなく細胞障害との関連を検討する実験にとりかかる予定である。
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