研究概要 |
dystroglycan(DG)複合体は細胞外のlaminin結合蛋白であるαDGと細胞膜蛋白であるβDGを中心に構成される.dystroglycan複合体はシュワン細胞,筋細胞を含む様々な細胞の表面膜に発現し,発生の初期には基底膜形成の中核となり,その後は基底膜と細胞内骨格をつなぎとめる強固な架橋構造として維持される.生理的状態としての細胞の発生・分化ならびに病的状態としての癌細胞の転移・侵潤などの過程にはこの架橋構造を特異的にしかも効率良く破壊するメカニズムが存在するはずである.その候補として我々は昨年度βDGの細胞外ドメインを特異的に分解するmatrix metalloproteinase(MMP)活性を報告した.本研究ではこのMMPがDG複合体が崩壊しαDGとβDGが分離する現象に関与している可能性を検討した.シュワン細胞,シュワノーマ細胞,またδsarcoglycan欠損症のモデル動物であるBIO 14.6,TO-2ハムスターを生化学的に解析した.その結果,(1)このMMP活性はシュワン細胞,シュワノーマ細胞に発現する,(2)MMPによってβDG細胞外ドメインが分解するとαDGが細胞膜から遊離する,(3)BIO 14.6,TO-2ハムスターの骨格筋,心筋,平滑筋でMMPによるβDG細胞外ドメインの分解が特異的に亢進している,(4)これによってαDGとβDGが分離しDG複合体を介する細胞内外の架橋が破綻している,ことを見い出した.シュワン細胞膜にはdystroglycan複合体を介する細胞内外の架橋構造を特異的に破壊するMMP活性が存在する.この活性はシュワン細胞の発生・分化に重要な役割を果たしている可能性があるのみならず,ライ病菌がシュワン細胞に侵入することを抑制することも予想され,これを活性化することは新しいライ病治療法の開発につながる可能性がある.
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