研究概要 |
我々は骨格筋に対するアデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法を確立する過程でDuchenne型筋ジストロフィーのモデル動物でジストロフィンを欠損しているmdxマウス骨格筋にアデノウイルスベクターを導入したところ、筋変性及び再生筋線維に認められる中心核線維が減少し、表現型が改善していることを見い出した。更に、この現象はウイルスベクターを用いて遺伝子導入を行った場合に遺伝子産物に対する免疫反応が起こり、ジストロフィンのホモログであるユートロフィンの発現が増強されることによって引き起こされたことを明らかにした(Hum Gene Ther,in press)。ユートロフィンの発現増強について詳細に検討したところ、通常見い出される神経筋接合部における発現とは態度が異なるため、従来型とは異なる転写産物から起因していることが予想された。そこで、5'RACE法を用いてユートロフィン転写産物の5'端を検討した。その結果、神経筋接合部で発現している従来型とは異なる新たな2つのユートロフィン遺伝子の5'端を見い出した。そのうち一つは1999年12月にイギリスのグループから報告されたものと同一のもので(Proc Natl Acad Sci USA.96,14025-14030,1999)、もう一つは全く未知の塩基配列を示していた。今後この転写産物のプロモーター解析を行い、アデノウイルスベクターにより誘導されるユートロフィンの発現機構との関係を検討する。また、ユートロフィンの発現誘導の主因となる免疫機構を明らかにするため、個々のサイトカインをマウス骨格筋に導入し、ユートロフィンの発現増強の再現を試みた。現在までにT細胞系Th1サブセットに関与するIFN-γ、IL-12を投与したが、ユートロフィンの発現増強は見い出されなかった。今後T細胞系Th2サブセットに関与するIL-4、10などの投与について検討する一方で、バイオマテリアルの利用を含めてサイトカインの長期分泌実験について検討する。
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