研究概要 |
我々は骨格筋に対するアデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法を確立する過程でDuchenne型筋ジストロフィーのモデル動物でジストロフィンを欠損しているmdxマウス骨格筋にアデノウイルスベクターを導入したところ、筋変性及び再生筋線維に認められる中心核線維が減少し、表現型が改善していることを見出した。この現象はウイルスベクターを用いて遺伝子導入を行った場合に、遺伝子産物に対する免疫反応が起こり、ジストロフィンのホモログであるユートロフィンの発現が増強されるためであることを明らかにした(Hum Gene Ther 11:669-680,2000)。ことにユートロフィンの発現増強において、どのサイトカインが関与するか検討した。まず、CD4陽性T細胞のTh1サブセットへの分化に関与するIFN-γとIL-12及びTh2サブセットへの分化に関するIL-4の投与を行ったが、ユートロフィンの発現には全く変化はなかった。次にアデノウイルス感染組織で検出され、炎症性筋疾患や再生筋などユートロフィンが発現している組織で検出されるIL-6に注目し、投与実験を行ったところ、新生仔mdxマウス骨格筋でユートロフィンの発現増強が検出された。IL-6によるユートロフィンの発現増強は投与量依存的であることから、IL-6が直接骨格筋に作用している可能性が示唆された。但し、正常新生仔マウス骨格筋にIL-6の投与を行ってもユートロフィンの発現増強は起きなかったことから、他のサイトカインがIL-6と相加的に作用したときに、ユートロフィンの発現が誘導される可能性が考えられる。現在、抗IL-6抗体の投与により、アデノウイルスベクターの投与に伴うユートロフィンの発現増強が抑制されるかどうか検討している。今後の問題は、IL-6からユートロフィンの発現に至る細胞内シグナル伝達機構の解明である。
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