研究概要 |
ジストロフィンを欠損しているmdxマウス骨格筋にアデノウイルスベクターを導入したところ、筋変性及び再生筋線維に認められる中心核線維が減少し、表現型が改善していることを見出した。この現象はアデノウイルスベクターを用いて遺伝子導入を行った場合に、遺伝子産物に対する免疫反応が起こり、ジストロフィンのホモログであるユートロフィンの発現が増強されるためであることを明らかにした(Hum Gene Ther 11:669-680,2000)。次にユートロフィンの発現増強において、どのサイトカインが関与するか検討したところ、IL-6の導入が、新生仔mdxマウスの筋形質膜におけるユートロフィンの発現増強を引き起こすことを見出した。アデノウイルスベクター導入後のmdx組織中でのIL-6量をELISAにより定量した結果、導入12時間後をピークに2週後までII-6が誘導されていた。また、抗IL-6レセプター抗体を投与すると、アデノウィルスベクターによる筋形質膜におけるユートロフィンの発現増強が抑制されたことから、アデノウイルスベクターによるユートロフィンの発現増強にはIL-6が重要な役割を果たしていることが明らかとなった(Hum Gene Ther,13:509-518,2002)。次に、IL-6によるユートロフィンの発現増強がどのレベルで生じているのかTaqMan定量的PT-PCRを用いて検討した。ユートロフィンの転写産物には5'端の違いにより、A-,A'-及びB-ユートロフィンの3種類が存在するが、IL-6はA-ユートロフィンmRNA発現のみを一過性に増大させた。一方、アデノウイルスベクターは、導入4週後まで3種すべてのユートロフィンmRNA発現を増大させた。これらの結果から、IL-6は主にプロモーターAの活性化を介して、ユートロフィンの転写活性を誘導する可能性が示された、一方、アデノウイルスベクター導入によるユートロフィンの発現増強には、ユートロフィンmRNAの安定化が関与することが示唆された。
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