研究概要 |
[序論]本研究は、Cre-loxP系を応用することによりマウス心臓特異的にヒトIL-1α (hIL-1α) cDNAを過剰発現することにより、心肥大発症モデルマウスが得られるか、得られれば、それを用いて心肥大治療薬開発の可能性を追求すること、及び心肥大発症の分子機構を明らかにすることを目的とした。そのためには、CAG (cytomegalovirus enhancer/chicken β-actin promoter)-loxP/EGFP (enhanced green fluorescent protein)-CAT (chloramphenicol acetyltransferase)/loxP-hIL-1α-IRES (internal ribosomal entry site)-lacZ transgene (CELIZ)を有するtransgenic(Tg)マウスを作製する。一方で、MHC (α-myosin heavy chain promoter)-Cre transgene (MHC-Cre)を有するTgマウスを作製する。この両者の掛け合わせにより、double Tgマウスを作製する。このマウスでは、MHC promoterの影響下、心臓特異的にCre蛋白が発現し、CELIZ transgene内のloxPで挟まれたEGFP配列を除去され、その結果、下流側のhIL-1αがCAG promoterの影響を受け、hIL-1αが心臓特異的に過剰発現し,最終的に心肥大を誘発すると考えられる。 [結果/展望]CELIZ高発現Tgマウスを最終的に2系統を得、これらの子孫とCre発現Tgマウスとを掛け合わせることにした。この場合、MHC-Cre導入マウスの作製を最初企図したが、残念ながら色々努力は試みたもののTgマウスは得られなかった。そこで、別の目的の実験から既にCreを骨格筋、心臓、脳、膵臓、腎臓等様々な臓器で発現するMNCE Tgマウス(Sato et al.,Mol.Reprod.Dev.60,446-456,2001)を作製していたので、これとCELIZ発現Tgマウスとを交配させた。この交配から、double Tg(これをMNCELIZと称する)を得た。このマウスでは、Creを発現する臓器(心臓を含む)は、全てlacZ遺伝子を発現することがその基質であるX-Galによる組織化学的染色で判明した。lacZ遺伝子が発現するということは、その上流にあるhIL-1αも発現しているということで、実際、RT-PCR法でその発現が確認された。しかし、MNCELIZの心臓(生後8-10週令)の病理組織解析の結果、残念ながら、心肥大を示す所見は得られなかった。これは、おそらくhIL-1αmRNAの発現が未だ低かった可能性がある。というのも、Northern blot解析では、明確なバンドが得られなかったからである。因みに、心肥大を示した以前のTg(CAG-hIL-1α;単にCAG promoterの影響下、hIL-1α cDNAを発現する系統)マウスでは、Northern blotレベルで明確なバンドが得られたからである(Isoda et al.,J.Cardiac Failure,7,355-364,2000)。IL-1αの効果は、その微量な発現でも組織・細胞に対し、影響を与えるものと考えおり、その意味では、Cre-loxP系を用いた本実験系も有効かと考えられたが、微量なIL-1αでは心臓に対しては効果がなく、多少の量が必要とされるのではと思われる。近年では、Cre-loxP系以外にもconditionalに目的の遺伝子を発現誘導出来る方法が幾つか開発されている。これら方法を駆使すれば、心肥大を潜在的に発症するようなTgマウス系統を開発する可能性は未だ残されていると言える。
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