研究概要 |
血管生物学・血管作動性物質の研究が進み、高血圧症を遺伝的学素因から解析する手法に加え、これまで体質素因が重要と思われていた高血圧を血圧だけでなく臓器合併症に注目し、個々の病態に合わせて治療する流れにある。この中でも、実際の高血圧医療に最も貢献の大きいのはレニン・アンジオテンシン系の領域でありACE阻害薬が質的降圧療法の基本となりつつある。最近本邦でも臨床応用が始まったアンジオテンシン(AngII)受容体拮抗薬はAngII作用を阻害する点ではACE阻害薬と一致するものの、薬理作用や副作用の発現に大きな違いがある。AngII受容体拮抗薬の使用時には血中AngII濃度が上昇し残された2型受容体(AT2受容体)を選択的に刺激することになり、ACE阻害薬とは異なった薬理作用が発揮される。AT2受容体シグナルを介した血管弛緩作用が明らかになり、この機序としてAT2受容体刺激は細胞内酸性化によりキニン産生酵素の活性化により、ブラジキニン分泌を亢進させる。分泌されたブラジキニンは血管内皮に存在するブラジキニン受容体を刺激し、その下流でNO/cGMP系を介して血管拡張することにより、AT1受容体による血管収縮に拮抗する。AT2受容体ノックアウトマウスの基礎血圧上昇・AngII投与後の血圧過剰上昇はNO/cGMP系を介したAT2受容体依存性血管拡張作用が消失したために引き起こされたものと考えられた。AT2受容体シグナルはチロシンフォスファターゼを活性化し、AT1受容体による増殖キナーゼ系を抑制して抗細胞増殖活性や抗線維化作用を発揮する。,しかし、AT2受容体からフォスファターゼまでの介在分子は明らかになっていない。血圧調節に重要な末梢細血管や不全心筋にはAT2受容体が発現する。AT1受容体拮抗薬の投与時には選択的にAT2受容体が刺激されることを考えると、AT2受容体シグナルによる心血管作用の解明は重要である。
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