本研究は1987年Kunkelらにより発見されたDuchenne型筋ジストロフィーの欠損蛋白ジストロフィン(dy)の生理機能を明らかにし、臨床的治療および遺伝子治療の指針とすることを目的としたものである。 私達はこれまでの一連の研究からDMDにおける筋崩壊は血管の機能不全によるものであると考えてきた。 つまり膜から膜へ伝導が伝わる血管平滑筋において血管の収縮拡張機能がdyの欠損によって損なわれていると考えられる。 一方、局在に関する私達の研究によればdyはシナプスを中心に存在していて刺激伝導に関わる蛋白である可能性が高いことを主張してきた。 DMDにおける筋の崩壊の機構を明らかにすることができれば臨床的な治療に有用な情報となるだけでなく遺伝子治療の標的臓器が明らかになる大きなメリットが産まれる。 dy生理機能の解明のためにまずdyの欠損状態にあるmdxマウス血管平滑筋にトランスジェニックを作成することによりdyを発現させる研究を計画した。human smooth muscle α-actinプロモーターにdyを組み込んだコンストラクトを作成しマイクロインジェクション法によりトランスジェニックマウスを作成するというものである。 今年度はそのコンストラクト作成に成功しトランスジェニックマウスを作成する段階に入ることができた。 一方遺伝子治療に対する試みとして日本医科大学・生化学第二・島田隆教授との共同研究でアデノウィルスベクターとエコトロピックウィルスベクターを組み合わせた2段階遺伝子導入法を確立しており、この手法を基盤としてhuman smooth muscle α-actinプロモーターを用いて全身の血管平滑筋にdy遺伝子を導入する方法を用いて全身の平滑筋機能から見た遺伝子治療を開発中である。
|