研究概要 |
悪性腫瘍、表皮分化異常、脱毛など皮膚科領域の主要な疾患の病因を理解し根元的な治療戦略を構築するため、マウス胎児皮膚の形態形成過程で発現が変化することを指標に、皮膚構成細胞の増殖・分化の制御に関わる遺伝子を系統的に単離し、解析する。今年度行った研究と成果の要約は以下のとおりである。 1.既に、RNA differential displayによって単離した新規遺伝子を解析した。 1)tpis:胎児皮膚の分化が進む過程で発現が増加する。角化細胞では529,精巣では901アミノ酸からなり、5'端が異なる。蛋白ー蛋白相互作用に与るTPRドメインを持つ。精巣では精細胞の分化が進むにつれて強い発現が見られる。大腸菌に発現させた蛋白質を精製して、抗体を作成した。発現ベクターに組み込んでHaCat細胞に導入したところ、Tpis蛋白質は細胞質に局在していた。小脳でも弱い発現がみられ、免疫染色をしたところPurkinje細胞が染色された。 2)1C10:約3.5kbの転写物を解析し、N端に2ヶ所のアクチン結合ドメイン、C端に1ヶ所の膜貫通ドメインを持つことを明らかにした。Spectrin、plectin,Dystrophin等と部分的ホモロジーを示す。大部分の器官で多かれ少なかれ発現が見られるが、特に胎児皮膚、精母細胞、精子細胞で強く発現していた。脳での発現は小脳のPurkinje細胞や海馬のニューロンに強い発現が見られた。いくつかのアクチン結合蛋白質が中枢神経系のシナップス形成を動的に制御し、その学習や記憶への関与が議論されているところから、1C10もそのような可能性も含めて機能を明らかにすべく、抗体を作成して検討中である。 3)4A40:N-末にCa結合性のEF hand domain、中央の大部分はリピート構造から成るという、プロフィラグリンに類似した構造を持つ。皮膚、舌、食道、前胃等、角化細胞に共通して発現が見られる。フィラグリンと同様、角質形成、皮膚の保湿などに関つていると予想される。 2.マウス胎児皮膚の形成過程にRNA differential displayを適用して、新たに20数個の発現変化する遺伝子断片を単離し、解析中である。
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