研究概要 |
本研究では、脳に対するプロトン磁気共鳴スペクトロスコピー映像法(chemical shift imaging; CSI)の臨床的有用性を高めるために,その定量性の精度向上の検討を目標としている. (1)昨年度来開発を進めている正常脳における組織分画法についてその再現性の検討を行った。結果として得られたのは、関心領域の中央部での再現性は比較的高く,頭蓋骨に隣接する周辺部での再現性は低いことであった.周辺部での再現性の低さは静磁場,変動磁場の不均一性から生じる現象であるため、今後,補正法の更なる改善を必要とする.また今後の装置を含めたハードウエアの改善が強く望まれる. (2)昨年度に脳内代謝物のファントムからのスペクトルを得たが、本年はこの結果を踏まえて実際の正常脳でのスペクトルデータのfittingを行い,定量化の精度向上を検討した.市販のSAGE/IDLプログラムによるスペクトルデータは、個々の代謝物ピークを用いることによって定量化の精度の向上が得られた.将来的には今回ファントムとして測定した代謝物以外の信号への対処法の検討が、今後の課題となると考えられた. (3)臨床応用への前段階として、臨床で撮像される画像データ、すなわちCSIデータと角度が異なり、しかもスライス問隔を有するデータでの組織分画の解析法と病巣部のより精度の高い組織分画法の検討を行った.ピクセル毎の1:1対応のlinear interpolation法を用いることにより、スライス間隔を有する空間分解能の低い2次元画像データから良好な連続データを得ることが可能であったが,高分解能の3次元画像データからの結果と比較すると遜色が見られ,今後の改善を必要とした.病巣部の組織分画では臨床で用いられている種々の撮像法によって得られるコントラストを組み合わせることによって正常組織と病巣部の精度の高い組織分画が可能であった. 本年度は少数の臨床例への応用しか行えなかったが,今後はこれらの解析法の精度をさらに向上させ,CSIによって得られる脳の代謝情報を臨床に応用していくことが重要な課題となる.
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