研究概要 |
低酸素状態が放射線誘発アポトーシスに及ぼす影響についてV79培養細胞を用いて調べた.X線ないし重粒子炭素線照射18時間後のカフェイン添加によりG2ブロック解除されて球形変化したV79チャイニーズハムスター細胞を前アポトーシス細胞として計数した.照射後10%アポトーシス出現率で調べた酸素効果比は,X線と110keV/μm炭素線ともに2.5であった.2-ニトロイミダゾール系低酸素細胞増感剤(PR-350)添加は低酸素細胞のX線誘発アポトーシスを増大したが,低酸素細胞の炭素線誘発アポトーシスには無効であった.コロニー形成法(増殖死)の10%生存率で調べた場合,酸素効果比はX線と炭素線でそれぞれ3.0と2.0であった.PR-350の低酸素増感効果はX線で1.5,炭素線で1.3であり,何れの線質でも明らかな増感効果が認められた.酸素状態とLETの影響はアポトーシスよりも増殖死に対して,より強く発現した. 細胞は電子伝達系において、恒常的に活性酸素(O2-)を産生しているが、過剰なO2-はsuperoxide dismutase(SOD)により速やかに消去され,過酸化水素(H2O2)が産生される.腫瘍細胞における再酸化の意義を調べるために,卵巣がん由来の細胞株にmanganese superoxide dismutase(MnSOD)遺伝子を導入し、増殖や放射線によるアポトーシスにおけるO2-の意義を調べた.MnSOD過剰発現細胞は,ベクター導入細胞(対照細胞)に比し増殖が抑制され,放射線による感受性が増加した.同時にこの感受性は,SODの過剰発現によるH2O2の産生増加に伴うアポトーシスによることがあきらかにされた.このことは.SODにより産生されるH2O2が,増殖やアポトーシスに重要な役割を果たしていることを示唆する.
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