研究概要 |
ラットにおいて,胎生後期は胎仔の神経伝達物質受容体形成に重要な時期とされる。この時期に軽微なストレスを受けたラット(胎生期ストレス群)が感情病(うつ病)の生化学的脆弱性モデルと成り得ることをこれまでの研究により確認してきた。成熟後さらに,慢性の予測不可能なマイルドなストレス(chronic unpredictable variable stress,CVS)を加えると,雄性ラット胎生期ストレス群において暗期行動量の有意な減少が認められた。今回実施したCVSは対照群に対しては,生後未処置群と比較して,暗期行動量への影響を生じない程度の比較的軽微なストレスと考えられ,胎生期ストレス群は生後のストレスに脆弱性を有していると考えられた。また,抗うつ薬イミプラミン10mg/kg反復腹腔内投与をCVS負荷後に行うと,雄性胎生期ストレス群においてCVS負荷による対照群に比しての暗期行動量の減少は消失した。同様に,イミプラミン反復投与の前処置は,CVS負荷による暗期行動量の減少を消失させた。このように,イミプラミンは対照群とは異なって胎生期ストレス群に対して,CVS負荷による暗期行動量の減少を是正する方向に作用した。以上より,胎生期ストレス雄性ラットで認められたCVS負荷後の暗朗行動量の減少はうつ病の病態モデルの行動指標となりうると考えられた。一方,コミュニケーションボックスを用いた心理的ストレスのみの反復処置によっては,CVS後にみられた胎生期ストレス群の暗期行動量の減少は認められず,ストレスの種類により胎生期ストレス群の自発行動量に及ぼす影響は異なっていた。また,摂食制限処置反復後の摂食量の正確な測定(ペレットフィーダユニット)により,胎生期ストレス群では対照群に比し,摂食量の有意な増加が認められ,前者が過食になりやすい傾向を有しているとみなされた。神経性大食症が感情病の近縁疾患とみなされることからも興味深い結果と考えられた。
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