研究概要 |
胎生期から幼少児期にかけてのモノアミン系ニューロンなどの神経系の形成に重要な時期に受けたストレスと感情病の生化学的脆弱性との関連性が認められている。これまでの研究より,ラット胎仔において神経伝達物質受容体形成に重要な時期となる妊娠後期の母ラットに軽微なストレス(生理的食塩水0.2mlの皮下注射)を負荷し,生まれた仔ラット(胎生期ストレス群)が,感情病(うつ病)の生化学的脆弱性モデルになりうることを確認してきた。今回,以下のような結果を得た。(1)デキサメサゾン抑制試験において,胎生期ストレス雄性ラットでは拘束ストレス後のコルチコステロン分泌の脱抑制がみられ,HPA系の機能亢進状態を示していた。(2)成熟後,慢性の予測不可能なマイルドなストレス(chronic unpredictable variable stress,CVS)を加えると,雄性ラットにおいて胎生期ストレス群の暗期行動量は対照群に比し長期間にわたり減少していた。(3)抗うつ薬イミプラミンのCVS後の投与あるいは前投与は,胎生期ストレス群に対して,CVS負荷による暗期行動量の減少を是正する方向に作用した。また,(4)電気けいれん療法(パルス波)反復処置もイミプラミンの場合と同様に,これを是正するという共通の作用がみられた。(5)強制水泳テストにおいては,CVS負荷による胎生期ストレスラットにおける無動時間の延長は認められなかったが,CVS負荷後head twitching回数は胎生期ストレス群では,イミプラミン反復投与により有意な減少がみられ,過密ストレス後にhead twitching回数が増加し,抗うつ薬の反復投与がこれを減少させ,うつ病モデルのマーカーとなりうるとする以前の報告を支持するものであった。以上より,胎生期ストレス群雄性ラットは生後のストレスに対して脆弱性を有し,CVS負荷による暗期行動量の減少は感情病の病態モデルの行動指標として有用であると考えられた。
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