哺乳類造血幹細胞の起源は、胎生中期大動脈・生殖腺・中腎(AGM)領域に存在する中胚葉性血球血管共通前駆細胞「ヘマンジオブラスト」であることを昨年度までの研究により示してきた。私が昨年開発した新規マーカーPCLP1に加えて、本年度はヘキスト色素の排出活性(SP:Side population)をこれに組み合わせて、PCLP1陽性CD45陰性SP分画のセルソーティングにより、AGM領域ヘマンジオブラスト細胞集団を約300倍濃縮することに成功した。この方法では、1000以下のAGM領域細胞の移植で造血系キメラを作製することができる。さらに、この細胞集団からは血球ばかりでなく、小腸や肺の微小血管内皮細胞および腎臓や子宮の間質細胞もin vivoで分化することを見出した。また、同様のin vivo分化活性は純化した骨髄造血幹細胞にも検出された。これらの移植実験結果に加えてさらに今年度は、AGM領域幹細胞のレトロウイルスマーキングにより血球と小腸微小血管が同一の細胞に由来する証拠を得た。以上の結果は、造血幹細胞は実はAGM領域へマンジオブラストと同等の成体内細胞であり、それらはin vivoで一個の幹細胞から複数の系統の細胞を生み出す能力(発生可塑性)を有していることを示唆する。しかし、AGM領域へマンジオブラストの血球血管分化能は骨髄造血幹細胞のそれより高いため、今後はその違いの基礎と造血系・血管内皮系への分岐が幹細胞のレベルでどのように分子制御されているのかについて、研究を進める。
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