造血幹細胞は胎生期AGM領域の血球血管共通前駆細胞ヘマンジオブラストから発生すると考えられている。我々はAGM領域由来のヘマンジオブラスト様細胞株に対するモノクローナル抗体を利用して、新規ヘマンジオブラストマーカーpodocalyxin-like protein 1(PCLP1)を同定した。AGM領域のPCLP1陽性CD45陰性細胞群は、in vitro培養系において血液細胞と血管内皮細胞の両者を産生した。一方、これらの細胞群をbusulfan処理した新生マウスの肝臓に移植すると、すべての系統の血液細胞ならびに肺、小腸、子宮の血管内皮細胞、平滑筋細胞、そして間質細胞の一部がドナー由来に置き代わることを見い出した。さらにAGM領域細胞をレトロウイルスでマーキングして、その発生運命を追跡したところ、血液細胞と小腸の非血球系細胞の両者が同一の幹細胞に由来することが判明した。同様のin vivo分化は、造血幹細胞が高度に濃縮されたCD45陽性の骨髄SP細胞を移植した場合にも観察された。したがって、胎生期AGM領域ヘマンジオブラストは移植動物内でまず造血幹細胞へと分化し、臓器特異的に血管内皮細胞などへ分化転換をおこしたと推察される。 我々はAGM領域にて造血幹細胞が発生するには、AML1およびc-myb転写因子が必須であることを示してきた。これらの転写因子の機能を知る目的で、ノックアウトマウスAGM領域に由来する細胞株を新規樹立し、誘導性プロモーター下にAML1あるいはc-mybをオンオフさせる実験系を作製した。遺伝子探索の結果、insulin-likegrowth factor binding protein-3のmRNAがAML1により発現抑制されることを見いだした。両転写因子の下流で作用する遺伝子群のさらなる解析を通して、ヘマンジオブラストから造血幹細胞が誘導される分子機構が明らかにされると期待される。
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