研究概要 |
C57BL6/J系統のオスの若年マウス(8週齢)と、自然経過加齢老齢マウス(12ヵ月齢および24ヵ月齢)において、エンドトキシン(LPS)投与による敗血症病態での経時的な各組織での組織因子(TF)、線溶制御因子・PAI-1のmRNA発現量を定量した。その結果、若年マウスと比較して老齢マウスではLPS投与2,4時間後における肝、腎でのPAI-1mRNA発現量の増加が著明で、TF mRNAについても腎においてやはりLPS投与4,8時間後に顕著な発現上昇を認めた。また、in situ hybridization法でも、若年マウスに比較して老齢マウスでは、肝臓の類洞血管内皮細胞および肝細胞において、また腎糸球体内の血管内皮細胞においてPAI-1mRNAのシグナルが著明に増強していた。以上より、LPS投与による敗血症病態では、老齢マウス組織において局所における血液凝固能が著しく増加し、血栓傾向の著明な増大をきたしていると考えられた。 次に、C57BL/6J系マウスにLPS、TNF-αあるいはIL-1などの炎症性サイトカインを腹腔内投与し、PCとTFPIのmRNA発現量を定量、組織内フイブリン沈着の経時的変化について検討した。その結果、LPSおよび炎症性サイトカイン投与後には組織レベルでPC活性、TFPI活性が低下していると予測され、凝固亢進状態が惹起されていると考えられた。また、LPS投与後の腎における皮質糸球体内の毛細血管ループ、および皮質、髄質の尿細管周囲の微小血管内フイブリン沈着が認められたが、その沈着はLPS投与3〜4時間後をピークとして徐々に減少し、投与24時間後にはほとんど検出されなくなった。これと同様のフイブリン沈着の経時的変化は、副腎皮質の微小血管内においても認められ、これらの経時的変化は組織におけるPCおよびTFPI mRNA発現の経時的変化(投与4時間後に発現が低下)とよく符合しており、両因子の発現変化と実際の血栓形成との間に密接な関わりがあることが示唆された。すなわち、LPSおよび炎症性サイトカイン投与による敗血症あるいは炎症惹起マウスモデルにおいては、PC、TFPIといった重要な血液抗凝固因子の発現が、組織、細胞レベルで低下しており、それによって組織における微小血栓形成、沈着が促進され、凝固亢進状態が招来されていると考えられた。
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