研究概要 |
癌特異的遺伝子のプロモーターとしてCEA,SCCAプロモーターを導入したアデノウイルスベクター導入用シャトルベクターを構築した.まずpGL3ベクターにCEA(他研究施設より供与),SCCAプロモーター(ヒト胎児腎細胞株293細胞よりPCR法でクローニング)を導入し,βガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子をレポーターとして挿入したベクターおよびN116Y遺伝子を治療遺伝子として挿入したベクターを構築,これらを制限酵素で切り出してシャトルベクターpAdTrackに導入した.目的とする4つのベクターのうちAdCEA-LacZ,AdCEA-N116Y,AdSCCA-LacZが得られた.まずAdCEA-LacZ,AdCEA-N116YとCEA産生のあらかじめ分かっている癌細胞株PCI43およびCEA産生のない株PCI,正常細胞株1C3D3を用いて発現実験および治療実験を行った.コントロールベクターとして,CMVプロモーターでLacZ,N116Yを発現するアデノウイルスベクター(AdCMV-LacZ,AdCMV-N116Y)を用いて比較検討した.AdCMV-N116Yは癌細胞の増殖を阻害したが,正常細胞においても同様に阻害した.これに対してAdCEA-N116Yは正常細胞に対しては細胞毒性を示さず,CEAを産生するPCI43のみを障害した.つまり,このベクターを用いることによって,正常組織では副作用のない遺伝子導入系をつくることができることが証明された.この治療効果および正常細胞への安全性はヌードマウスの癌移植モデルにおいても確認された.次にSCCAプロモーターを導入したLacZ発現ベクターでは,扁平上皮癌でのみLacZの発現が確認され,正常細胞では発現が見られなかった.現在SCCAプロモーターにアポトーシスを誘導することを目的とした治療遺伝子を組み込んだベクターを構築中である.
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