研究概要 |
advanced glycation end prodcct(AGE)は生体内タンパクのアミノ基と糖との間のメイラード反応により生成される糖化タンパクで、老化、動脈硬化発生機序にかかわる重要な因子として注目されている。ヒト自家静脈グラフトは移植後5年以降に高率にグラフト硬化を発生するが、硬化の前段階では必ず弾性板の消失、内膜肥厚、中膜平滑筋細胞の消失が起こり、内胸動脈においても中膜弾性線維層が加齢と共に変性、減少し、弾性板周辺筋層が線維化に向かう。しかし内胸動脈にみられるこれら変性の進展は自家静脈に比べて極めて緩徐であり、弾性動脈としての防御機構、とりわけ内弾性板と数層の中膜弾性板がglycationからの防御作用を発揮していると考えられる。 本研究の目的は正常ヒト血管を用い、中膜へのAGE沈着、中膜弾性線維層の構造変化、特にそのglycationによる変性により中膜平滑筋細胞がアポトーシスへと向う一連の変性過程を解析し、動脈硬化発生機序におけるAGEの関与とその対策を明かにすることである。 成人内胸動脈では中膜弾性線維層へのAGEの沈着を認め、加齢が進むと内膜においてもAGE沈着を認めた。自家蛍光を用いたAGE検出法では、加齢とともに内胸動脈へのAGE沈着が増加していることが明らかとなった。今回用いた6D12,CMS-10,H-12の抗体が検出する、CML, pyrralineに関しては加齢との相関を認めなかった。成人では自家蛍光、抗AGE抗体いずれの方法でも、内胸動脈へのAGE沈着が検出されたが、0歳児および4歳児の内胸動脈ではいずれの方法でもAGE沈着は認めなかった。 加齢とともにAGE沈着は増加し、中膜弾性線維層も減少し、中膜弾性線維層防御機構の減弱を認めるものの、内胸動脈に関する限り、高齢でも十分に動脈硬化防御機構は機能していることが示唆された。
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