研究概要 |
今年度はまず、臨床劇症肝不全の原因となるキノコ毒に着目し、その成分でRNAポリメラーゼ阻害剤であるα-amanitin(AAM)を用いてブタ劇症肝不全モデルの作成を行った。体重20kg前後のブタに全身麻酔下にAAMを門脈内投与した。AAM単独投与群(0.05,0.1mg/kg)では用量依存症に致死率は増加したが(0.1mg/kgでは66%)、いずれも血清GOTの上昇は1600-2100IU/Lまでにとどまった。次に、単独では非致死的な少量のlipopolysaccharide(LPS)1μg/kgをAAMと同時投与すると、GOTは24時間以内に7000-11000IU/Lまで上昇し、AAM0.1mg/kg+LPS投与群(n=9)では3頭が24時間以内に、残り6頭も4日以内に死亡した。この群では、著しい低血糖と、血清ビリルビン、乳酸値及びNH3値の上昇、ヘパプラスチンテスト(HPT)の低下(15%以下)とプロトロンビン時間(PT)の延長(35秒以上)など、典型的な肝不全所見を呈した。さらに、肝組織所見では、光顕像で広範な肝細胞変性が認められた。次にこの群において、薬剤投与後16時間に病的肝を摘出し、健常ドナーからのグラフト肝を用いて同所性全肝移植を行ったところ(n=3)、全例移植後回復生存し、薬剤により他の重要臓器は障害されず、移植肝も影響を受けないことが裏付けられた。以上の結果よりAAM0.1mg/kg+LPS1μg/kg門脈内投与のプロトコールによるこのブタ劇症肝不全モデルは、i)再現性を持って致死的な肝不全となり、ii)障害は肝特異的であり、iii)毒性は遷延しないことよりバイオリアクターなどへも影響を与えない、などの優れた特徴を備えており、有用な実験モデルになりうると考えられる。現在この肝不全モデルを用いて補助的部分肝移植を行い、肝不全に陥った自己肝の再生の可能性について検討中である。
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