研究概要 |
胃癌や大腸癌が多発する家系があることは,消化器癌発生に遺伝的な問題が少なからず関与していることを示唆する.現在,消化器癌発生と遺伝的の関係は,一部の癌を除いていまだ不明である.現在われわれは,IGF2,H19遺伝子などインプリンティングを受ける遺伝子のLoss of imprinting(LOI)が,癌多発家系の正常体細胞中に認められるか否かを検索し,消化器癌発生とLOIとの関係を検討している.平成11年度では,家系内に胃癌が多発する確立は,胃癌患者ではコントロールの2倍と高率である事が判明した.現在この結果は,論文に投稿中である.平成12年度において,胃癌や大腸癌患者の血液を採取し,癌組織と末梢リンパ球(正常体細胞)中のIGF2やH19のLoss of imprinting(LOI)がどの程度の頻度で発現しているかを検討した.大腸癌においては,44例において癌組織のIGF2とH19のLOIを検索した.Informative症例において,H19のLOIは認められなかったが,IGF2のLOIは22%に認められた.即ち,大腸癌においては,H19よりIGF2のLOIが重要な意味を持つのではないかと考えられた.現在,胃癌でも同様な検索を行うとともに,胃癌大腸癌患者の癌組織と末梢リンパ球中のIGF2やH19のLOIとの関連性を検討中である.さらに,健常人末梢リンパ球のIGF2やH19のLOIの頻度を検討し,癌患者の頻度と比較する予定である.インプリンティング異常はメチル化の異常であり,後天的要因で起こるとされているが,末梢リンパ球中のIGF2やH19遺伝子のLOIが胃癌が多発する家系の胃癌罹患者や非罹患者より得られれば,インプリンティング異常を引き起こすメチル化の異常が後天的要因よりむしろ遺伝的な要因でおこりうる証明となると考えられる.
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