光感受性物質と癌の特異抗体とを結合することで、光感受性物質を癌細胞に特異的に到達させて、その後にレーザー光照射を加えて光感受性物質を活性化させる、選択的光線力学治療法を新たに開発するのが本研究の目的である。光感受性物質とレーザー光照射による光線力学的治療法はわが国では、東京医科大学外科の加藤らのグループが中心となり、オリジナリティの高い研究が進められ、肺癌に関してはすでに実用化している。抗体による薬剤のターゲッティング関しては筆者らのグループが癌に対して世界で初めて臨床応用(1988年)を報告して以来、キメラ抗体の開発などでその発展に寄与してきた。光感受性物質との結合にキメラ抗体を用いることで、臨床的にもより安全な剤型の開発が容易になることが期待できる。本研究ではまず、光感受性物質Mono-L-aspartyl chlonin e6(ME2906)と、大腸癌などの消化器癌と特異的に反応するキメラ化モノクローナル抗体chA7との複合体を作製した。そして、複合体にすることで光感受性物質のヌードマウス移植ヒト癌への集積性をあるていど向上させられる事を示した。また、複合体の安定性は、その実用化において極めて重要なポイントであるが、少なくとも本複合体は活性を維持したまま、12カ月は安定であることが証明された。臨床応用のため必要な、抗体部分の毒性の検討など、期間内に達成できなかったため、臨床第I相試験を開始するに至らなかったが、今後も検討を継続することで、臨床応用される可能性がある。
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