研究概要 |
我が国においても脳死者からの肺移植が開始されたが,ドナーの数には限りがあるドナーの不足が深刻な問題となるものと予想される.このようなドナー肺の不足に対する解決策として,心停止後の死体肺移植が位置ずけられる.心停止後のドナー臓器を移植に用いる試みは、いまだ臨床応用に至っていない。その原因としては、1肺の虚血に対する耐性が低くく、ドナー肺摘出までの許容時間が1時間から2時間と短いため良好な状態の肺を摘出することが困難である、2心停止後の虚血肺の状態の評価が困難である、すなわち摘出したドナー肺が肺移植に適しているかの判断が困難である、3冷保存後の再潅流障害、などが主な原因となっている.これらの問題を解決することにより、心停止後の死体肺移植が臨床応用されればドナー不足が大きく解決される可能性がある。本研究によって、肺ミトコンドリアの虚血障害が肺虚血再潅流障害に関与する可能性を示し、肺のエネルギー状態が虚血肺に大きな役割を演ずることを明かとなった。また、肺ミトコンドリアに対するchemical preconditioningが肺の虚血状態への耐性を増加し,心停止後ドナー肺摘出までの許容時間を延長させることが可能であることを、また、ミトコンドリアの呼吸機能の変動により心停止後の肺の虚血障害の状態を把握することが可能であることを明らかとなった.以上の結果を踏まえ、1chemical preconditioningによる心停止後ドナー肺摘出までの許容時間を延長させ、2ミトコンドリア呼吸機能測定によりドナー肺の状態評価を行い、3冷保存時間の限界を把握することにより、心停止後ドナー肺による肺移植が臨床応用されればドナー不足解消への一助となるものと期待される.
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