研究概要 |
神経膠芽腫の浸潤機構の解明を目的として、細胞外マトリックス分解酵素であるmatrix metalloproteinase=MMPの神経膠腫における産生を検討した。まず、MMPファミリーのうち最も浸潤能に関係があると思われるMMP-2とその活性化因子である細胞膜貫通型MMP(MT1-MMP)、及びそれらの抑制因子であるTIMP(tissue inhibitors of metalloproteinases)-1,2の浸潤、髄腔内播種における役割を考察した。神経膠腫50例(星状細胞腫8例;退形成星状細胞腫13例;神経膠芽腫29例)につき、イムノアッセイ法でMMP-2,TIMP-1,2産生量を測定し、同組織における免疫組織学局在を調べた。更に、MT1-MMPのmRNA発現量を定量的RT-PCR法により計測した。次に、glioma cell lineにMT1-MMP遺伝子を導入し、collagen gel内での浸潤形式を観察した。その結果、神経膠芽腫組織でMMP-2とTIMP-1の産生量が有意に高く、TIMP-2は組織間で差を認めなかった。MT1-MMP発現量は神経膠芽腫で有意に高く、更に髄腔内播種を認めた神経膠芽腫6例において、認めなかった群より高値を示した(p<0.01)。TIMP-2の産生量は髄腔内播種を認めた神経膠芽腫において、有意に低値を示した(p<0.01)。免疫組織染色では上記4分子いずれも腫瘍細胞に局在した。一方で、MT1-MMP遺伝子導入株の産生したMMP-2は活性化を受けており、collagen gel内で浸潤性の発育を示した。この浸潤性の発育はTIMP-1では抑制されず、TIMP-2によって完全に抑制された。以上により悪性神経膠種の浸潤にはMMP-2,MT1-MMPが関与しており、MT1-MMPとTIMP-2の不均衡が神経膠芽腫の髄腔内播種に重要であると考えられた。
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