研究概要 |
神経膠腫は悪性度が高くなるにつれ,転写因子Ets-1を高発現することが知られている。我々は神経膠腫細胞株U251に,DNA結合能力を有するが転写活性化部位を欠くEtsドミナントネガティブ(DN)変異体を遺伝子導入したU251-DNを樹立した。この細胞株ではuPA(urokinase type plasminogen activator)の発現低下をきたしin vitroで細胞浸潤の低下が起こることを見出しEts-1を主要な浸潤関連転写因子と位置づけた。更にU251-DNを用いてEts-1による細胞外基質への接着,運動能の制御機構を検討したところ,ファイブロネクチン上での接着能低下,細胞骨格低形成,細胞移動能低下,focal adhesion kinaseリン酸化低下が示された。このような変化はコラーゲン上では認められなかったことから,接着分子の発現を検討したところ,U251-DNにおいてインテグリンα5およびβ3の発現低下が見いだされた。レポーターアッセイによってインテグリンα5の転写調節にEts-1が直接関わっていることが判明し,Ets-1がファイブロネクチンレセプターの転写調節を直接的に行うことが示された。さらに神経膠腫15例(星状細胞腫5例;退形成星状細胞腫5例;神経膠芽腫5例)につき,インテグリンα5とβ3およびEts-1のmRNA発現量を定量的RT-PCR法により計測した。その結果,両者の発現量が正の相関関係を示し,神経膠芽腫において両者の高発現が認められた。このことからEts-1が細胞外マトリックス分解酵素のみならず,接着因子の発現調節を担い,神経膠腫の脳実質への浸潤に大きく関与していることが明らかにされた。
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