クモ膜下出血後の髄液中で様々な炎症性サイトカインが上昇し、その一部が髄腔内の白球から放出されることは前年度報告した。本年度Neurological Researchに採用され、現在印刷中である。本年度は正常圧水頭症に認められる可逆性の痴呆症を動物実験で解析した結果を報告する。TGF-β1はマウスに交通性水頭症を惹起する。同様の実験をラットで行うとマウスの実験時に見られるような水頭症は脳室拡大は認めないが、クモ膜下腔の繊維化が見られ、さらにそれらのラットでは空間認識能の障害が明らかに見られた。そこでの研究ではクモ膜下腔の繊維化が空間認識能に与える影響について検討した。13週令の雄Wisterラットの脳室内にhuman recombinant TGF-β1を直接または浸透圧ポンプを用いて24時間で注入し、3ヶ月後モリス水迷路で空間認識能を測定した。次に断頭して脳室径やクモ膜下腔の超微構造、Na^+K^+-ATPase活性を組織学的に検討した。他のラットではNa^+K^+-ATPaseの阻害剤であるouabainを7日間持続注入ポンプで注入し、注入中と注入後3週後に同じようにMorris水迷路を行った。その結果、TGF-β1注入ラットでは空間認識能が障害されるとともに組織学検査では能室拡大はないもののクモ膜下腔の繊維化とともにくも膜細胞のNa^+K^+-ATPaseが失活していた。Ouabain注入ラットでは容量依存性に空間認識能が障害されるとともにくも膜細胞のNa^+K^+-ATPaseがouabain注入中のみ失活し3週間後には空間認識能が正常に戻るとともになんらの組織変化も見られなかった。全てのグループの泳速にも有意差は認めなかった。これらの結果からNa^+K^+-ATPase活性とクモ膜下腔の脳脊髄液の流れが空間認識能の維持に必要であることが示唆された。
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